怖くはないけれど幼少の頃の不確かな思い出の話。
わたしは集合住宅地っぽい所に住んでいました。
今ではどこもかしこも一戸建てだらけになりましたが、わたしが幼稚園児の頃にはそこら中空地だらけでした。
当時は空地と言えば格好の遊び場で、物心ついた時からインドア派だったわたしも転げまわって遊びました。
春にはつくしやよもぎを採取しましたし、ホトケノザの蜜を吸ったり、冬には雪合戦だってしました。
のっぱらになっている空地の他に、竹林になっている空地もありました。
普段わたしはその竹林がある方までは出歩かなかったのですが、その時はなぜか竹林の中に入り込んでいたのでした。
そもそもそこには行ってはいけない、入ってはいけないと言われていました。
でも、それを行ったのが親だったのか、他の大人だったのか、それも解りません。
その竹林のある場所はわたしのテリトリーから大分離れていましたし、思い返しても両親がどんな場所か把握しているとも思えません。
ただ、危ない場所だから入っちゃいけない、と言われていた記憶があり、だからこそ罪悪感と禁忌を犯す陶酔感で有頂天になりつつ竹林へ入りました。
記憶にある限りでは、わたしの他に二人の子供がいました。
女の子と男の子、姉弟だったと思います。
多分、この二人に誘われたのだと思います。
わたしはチキンだったので、危ないと言われている場所に自主的に赴くような子供ではありませんでしたから。
しかしその子らはよく遊ぶ子ではなく、どうやって知り合ったのかも覚えていません。
三人で竹林の中に分け入ると、中央付近だったでしょうか、突然池が現れました。
鏡のような水面を湛えていたと思います。
対して大きな池ではなく、大人が寝っころがった程度の幅しかなかったと思います。
幼心に、この池にはまっておぼれたりする可能性があるから、入っちゃいけないと言われたんだな、と考えました。
しかし、どうしてそこへ行ったのか、そこで何をしたのか、そこからどうやって帰ったのか、全く覚えていません。
たんに忘れてしまっただけなのだろうと思います。
それきり、姉弟と遊ぶことはなく、二度と会いませんでした。
数年後、他の空地同様、かの竹林にも家が建つことになりました。
正確には、竹林の周辺の空地が建築予定地だったようで、その為に生い茂る竹は伐採されました。
竹林は、わたしが記憶していたのに比べて随分狭く、小さく、ああわたしが大きくなったんだな、座りの悪いような寂しいような気持ちになりました。
中央付近の池が在る場所に辿り着くまで、結構歩いた記憶があるし、随分苦労して、冒険気分だったような思い出なのに。
しかし。
周りに家を建てる為に伐採された竹林の中に、在ったはずの池はどこにも在りませんでした。
干上がったのか、埋められたのか。
いや、それよりも、本当に、あの竹林はこんなに狭かっただろうか。
切られた竹の根本が無数にあるその空地を観ながらわたしは、どうしても納得がいきませんでした。
そもそも、わたしが侵入した竹林はここだったのだろうか。
いや、それ以前に、わたしには本当に竹林に侵入し池を観た過去があるのか?
今は竹林の周りだけでなく、竹林自体にも家が建っています。
当時周辺に住んでいた人に池の有無を尋ねれば疑問も解決するのでしょうけれど、ほとんど抜け落ちてしまった子供の頃の記憶なだけですし、そのまま放置しています。
ただ、もう少し大きくなったら、もう一度あの池に行ってみよう! と思っていたので、再び赴く前に池がなくなってしまったのはとても残念です。